LA VIE EN ( ラヴィアン・牛久) | 日記 | 船

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LA VIE EN ( ラヴィアン・牛久) の日記

2017.07.29

ある朝君は
この船に乗るから!と言った

君が指差すのは
伝統という積荷をつんだデカい船
誇りという舵をとるのは
男にしか許されないことだった

女人禁制のその船は
すでに汽笛をあげ港を出ようとしていた

僕は止めたんだ
性別はどうしようもないじゃないか
そんな男くさい船よりも
隣の ほらパーティをやってる
あの船で行けばいい

まだ間に合うわ
君は勝手に小舟で漕ぎ出した
どてっぱらに不器用な文字で
『応援指導部』と描いてある
デカい船を目指して

君は小舟から
何度も乗せてください!と
大声をあげた
僕は港から見守ることしかできなかった
双眼鏡を覗き込んで
固唾をのんで見ていたんだ

夜が来て朝が来て
また夜が来て幾日も君は小舟で過ごした

あしらわれたり
怒鳴られたり諭されたり
時には水を浴びせられたかもしれない
それでも君は
乗せてください!と言い続けた

小さい頃から君は
変わった子だった
みんなと同じにすることができず
みんなに笑われることもあった

だけど僕は いや僕らは
君の変わったところを大切にしてきた
同じにしない自由のために
常識というヤツラとたたかってきた
君を
守りたかったんだ

君が
その船にどうにか乗せてもらった日
僕は嬉しかった
君が自分の力で
常識というヤツラに
ヒトアワ吹かせたような気がしたんだ

それからの悪戦苦闘を僕はずっと見ていた
甲板を走り回る君
重い荷物を運び
男達と同じように働いた
時に同じに出来ない君は
掃除をしながら泣いていた

ずっと見ていたんだ
ずっと見ていたかったんだ

けれどいつしか船は陸から遠くはなれ
やがて双眼鏡に映る君は
小さく小さくなって

船は 見えなくなった

僕は
君の船が立ち寄る港を探した
もちろん迎えに行くつもりだった

泣いてはいないだろうか
辛くはないだろうか
僕の手の届かないところで
一人凍えてはいないだろうか

僕はいつでも君を船から降ろすつもりだった
けれど…

小さな港にその船が停泊している
『応援指導部』と描かれたその文字は
荒波をこえて ところどころ剥げてきている

そこには
髪を短くした君が
見違えるほどにたくましくなった君が
男達に混じってからだを動かしていた

元気に大声をあげ
楽しそうに船上を走り回っていた

大変な日々もあったことは想像に難くない

それはもういいよ
きっと君はそう笑うだろう
日焼けした顔を輝かせて笑うだろう

もう誰にも負けていない
臆することなく立派な船乗りだ
甲板をよく見ると なんと!
君の他にも女の子がいる
伝統という積荷を彼女も運んでいる

君は
その船の歴史を変えた
大袈裟なんだけど間違いなく
君が
変えたんだ

僕はすべてのことに感謝した
乗せてくれた船にも
舵をとっていた船長にも
受け入れてくれた乗組員のみんなにも
そして君を見て その船に乗ってきてくれた
彼女にも
ありがとうという気持ちだけしかない

それからは
君の来る港を僕は追いかけた
炎天下だろうと
どんなに遠かろうと
君の乗る船をひと目見ようと車を飛ばした

君が頑張ってるのを見たかったんだ

君の働きはすごくて
いつしか増えた乗組員に
いろんなことを教えるまでになっていった

腕立て伏せも出来なかったくせに
僕はそう呟いて小さく笑った
頼もしくなった君に
小さく笑った

ある朝
この船に乗るから
と言った時と同じように
君は船を降りてきた

名残惜しそうに後ろを振り返りながら
船を降りてきた

交代なの でももっともっと教える事があった
そう悔しそうに君は言った
船を降りる時に彼女が泣いてくれた
そう言って 君も泣いた

君のやってきたことを
彼女が無駄にしない
僕はそう思う

最初に船に乗るために
どんなに君が頑張ったか
彼女は知ってるから泣いたんだと思う

よかったね彼女がいてくれて
僕はそう思う

君は船を降りた
そして今度は道を歩き始める
ながいながい道だ
暑い日も寒い日もある
でこぼこになってるトコも
ガケだってあるだろう

でも 小舟を漕いで
船に乗ったことを忘れないでほしい
君にしか出来ないことをしたんだから
胸を張れ

もう行くわ
君は振り返りもせず歩き出した
うん
僕は何でもないように返事をする

また去って行く君

君の後ろ姿を見ないように
僕は海に目をやる
双眼鏡を覗くと
いま、岸を離れる君を降ろした船が見える
小さく小さくなる

双眼鏡を離し 目をこすると
海が滲んで勝手にこぼれた



















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